これがニュースになることがニュース?中国高速鉄道のBGM著作権事情

中国高速鉄道のBGM著作権事情

2018年9月、中国・広州市と香港特別行政区の中心部を50分足らずで結ぶ新たな高速鉄道として華々しく開業した広深港高速鉄道。

開業に関する様々な情報が流れているが、筆者が最近見たあるニュースには、驚きや感心というよりも「これがニュースに・・・?」という戸惑いが。

それは簡単に言うと、「中国史上初!高速鉄道の車内BGMが著作権の使用許諾を得る!」という内容なのだが、鉄道会社がオリジナリティあるBGMを創作して他社にライセンスしたなどという話ではなく、単に「車内で流すBGMについての使用許諾を取った」というだけの話なのである。

2018年10月12日付の中国知識産権資訊網によると、広深港高速鉄道を運営する香港鉄路有限公司が、中国音楽著作権協会(以下、音著協という)から車内BGMの使用について許諾を受けた。同路線は香港の西九龍エリアも通過することから、音著協は香港作曲家・作詞家協会とも協議し、その結果、関連条例に基づき香港鉄路が中国本土の音著協に使用許諾申請を行うべきとの結論に至ったとのこと(ちなみにこの関連条例、中国本土および香港の出入境関連手続きを香港の西九龍駅で一括して行う「一地両検」という制度で、香港では様々な論議を呼んでいるのだが、ここでは触れないことにする)。

音著協の担当者曰く、十数年前に鉄道部や関連部門と鉄道列車内のBGMに関わる著作権の問題について協議した際には、著作権に対する意識が薄かったこともあり、BGMの使用許諾を得るという考え方は根付かなかったとのことである。
なお、十数年前といえば中国では2001年に著作権法が改正され、「実演権」(著作物を公開実演、及び各種手段を用いて著作物の実演を公開放送する権利)が新たに明文化されており、他人の作品を実演するにあたり許諾を得なければならないことも原則として理解されていて然るべき時期。
日本でも1999年に著作権法が改正され、小売店や事業所におけるBGM使用が認められるという、国際的にも異例だった特例措置が廃止された。
この結果、各種交通機関におけるBGMについても使用料の支払が必要であることは当然のことと考えられ、各社が法を遵守した対応を行っていることは言うまでもない。

中国が知的財産権に対する意識を高め、人々を啓蒙するような情報を流すことは非常に良いことである。
ただ、いくら著作権関連のサイトが流した専門的情報とは言え、今回のようなニュースを聞くと「この程度の内容を喧伝するとは中国もまだまだ・・・」と逆に著作権保護の現状に疑問を抱いてしまう筆者である。

(日本アイアール A・U)